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仙台家庭裁判所 昭和55年(少)844号 決定

少年 R・T(昭三八・一〇・二二生)

主文

一  少年を中等少年院に送致する。

二  本件申請の戻し収容はしない。

理由

第一主文一項について

(罪となるべき事実)

少年は、

1  昭和五五年二月初旬の午後〇時三〇分ころ、山形県寒河江市○町×番地の×D方一階茶の間において、E子管理の現金三、〇〇〇円を窃取し

2  同月初旬の午後九時ころ、前記D方一階茶の間においてE子管理の現金九、〇〇〇円を窃取し

3  同月中旬の午後〇時三〇分ころ、前記D方二階南側八畳間において、同人所有の現金三〇、〇〇〇円を窃取し

4  同月中旬の午後〇時三〇分ころ、同市○○町×番地の×○○塗装店事務所二階のF方居室において、同人所有の現金五、〇〇〇円を窃取し

5  同月下旬の午後九時ころ、前記D方二階のG方居室において、同人所有の現金七〇〇円位を窃取し

6  同月末の午前一〇時ころ、同市△町×丁目×番××号H方二階のI方居室において、同人所有の現金一七、〇〇〇円を窃取し

7  同年三月中旬の午後七時ころ、前記○○塗装店事務所二階J方居室において、同人所有の現金六〇〇円を窃取し

8  同月三〇日午後四時ころ、宮城県刈田郡○○○町○○○×番地先空地において、K管理の現金八万九、六二七円及びカメラ一台外三一点(時価合計一六九、〇〇〇円相当)在中の普通乗用自動車一台(時価七〇〇、〇〇〇円相当)を窃取し

9  A、B及びCと共謀のうえ、

(1) 同月三一日午後一〇時四五分ころ、同郡○○町○地内の国道四号線を走行中のL(当時二一歳)所有の普通乗用自動車内において、同人に対し、「金持つてつか。」「本当にねえのか。身体検査してもしあつたら、やきを入れつからな。」「どうなつても知らねえぞ。」などと申し向けて金員の交付を要求し、もし右要求に応じないときには同人の身体にいかなる危害を加えかねないような気勢を示して同人を畏怖させ、よつて即時同所で同人から現金一三、〇〇〇円の交付を受けて、これを喝取し

(2) 同年四月一日午前二時ころ、山形県寒河江市○○町×番地の××○○塗装店資材倉庫において、D所有のクリアラツカー二罐(時価合計約七、五〇〇円相当)を窃取し

10  同月一〇日午前九時五〇分ころ、宮城県白石市○○字○○××番地の××付近の○○○河原において、トルエンを含有する塗料をみだりに吸入し

たものである。

(法令の適用)

一から八までの各事実  刑法二三五条

九(一)の事実     同法六〇条、二四九条一項

九(二)の事実     同法六〇条、二三五条

一〇の事実       毒物及び劇物取締法二四条の四、三条の三、同法施行令三二条の二

(処遇の理由)

少年は、昭和五四年七月二七日当裁判所で窃盗の非行により初等少年院送致の決定を受け、短期処遇を施す置賜学院に入院し、同年一二月一八日仮退院して肩書住居地の父方に帰住したものの、昭和五五年一月一〇日から同月一五日まで家出してCらと遊び回り、不安定な状態を示したため保護観察所の指導などにより、同月二四日から判示○○塗装店に住込就職した。ところが間もなくスナック等で飲酒するなど夜遊びをし始め、遊興費に窮して判示一ないし七のとおり、雇主、同僚及び友人から金員を窃取し、このようなことがあつて同塗装店を辞めざるをえなくなり、同年三月二二日父方に戻つた。その後同月二九日から家出して、判示八及び九の各犯行に及び同年四月三日シンナー遊びをしていたところを警察に補導されて家に戻り、同月七日には保護観察官の面接指導を受けたにもかかわらず、同月九日にはCらとシンナー遊びをしたうえ、帰宅もせず判示一〇の犯行に至つたものである。

以上のような経緯に照らすと、感情が不安定で、ささいな刺激によつて興奮や活動が過剰になり、自己統制が困難である等の少年の問題点はなお改善されておらず、その犯罪的危険性の程度も高まつてきていると判断せざるをえない。してみると、在宅保護はもはやとりえず、この際は、少年を長期処遇を施す中等少年院に送致して、主として内面の変革に重点を置いた強力な矯正教育を受けさせ、健全な価値規範の内在化を図るのが相当であると思料される。

第二主文二項について

東北地方更生保護委員会において、少年を少年院に戻して収容すべきものと認めた理由は、別紙記載のとおりである。なお、特別遵守事項第三号とは「他人の金品には手を出さないこと。」というものであつて、調査及び審判の結果によれば、遵守事項違反の事実が一応認められ、戻し収容の相当性も肯認でき、本来であれば、本件申請に応じて戻し収容の決定をすべきところである。しかしながら、本件においては、戻し収容申請事件と、そこで遵守事項違反とされている事実を含む犯罪事実にかかる一般保護事件とを併合審理したのであるが、このような場合に結局少年を少年院に収容すべきものと思料するときは収容期間につき特に配慮をしなければならない等特別な事情がない限り、少年法四六条の適用があること等にかんがみ、保護処分として少年院に送致すべきものと解され、戻し収容の決定は、これをしないのが相当であると考えられる。

第三結論

以上のとおりであるので、少年法二四条一項三号、少年院法二条三項を適用して主文一項のとおり、少年審判規則五五条にしたがい少年法二三条二項を類推適用して主文二項のとおり、それぞれ決定する。

(裁判官 八木正一)

別紙

本人は、当委員会の許可決定により、昭和五四年一二月一八日置賜学院を仮退院し、父R・S(宮城県刈田郡○○○町字○○××―×)の許に帰住し、仙台保護観察所の保護観察下にあるところ、昭和五五年四月一一日付けをもつて同所長から戻し収容申出書を受理したので審理するに

1 昭和五五年一月一〇日から同月一五日までの間、三月二九日から四月三日までの間及び四月九日から同月一〇日までの間それぞれ正当な理由なく居住すべき住居たる前記父の許に居住せず

2 (一) 昭和五五年二月ころ山形県寒河江市内所在の○○塗装店店主D宅から同人の所有する現金三、〇〇〇円及び同店住込従業員Fの居室から同人の所有する現金五、〇〇〇円を

(二) 昭和五五年三月ころ寒河江市内居住の知人Iの居室から現金一七、〇〇〇円を

(三) C、B、A、Lと共謀のうえ、昭和五五年四月一日ころ前記(一)の○○塗装店の倉庫から店主Dの管理にかかる一八リットル入の塗料カン二カン(商品名サンデイングシーラ及びパールフラット)をそれぞれ窃取し

3 Cと共謀のうえ昭和五五年三月三〇日午後一一時ころ仙台市○○通インベンダーハウス附近路上において、三人連れの通行人から現金二、〇〇〇円を、二人連れの通行人から三、〇〇〇円を、一人歩きの通行人から現金一、〇〇〇円をそれぞれ喝取し

4 昭和五五年四月一日仙台市及び白石市附近の路上においてLの普通乗用車を無免許で運転し

5 (一) 昭和五五年四月一日ころから同月三日までの間、○○市営球場附近等において、C。B。Aとともに

(二) 同月九日白石市内のMの居室において、M、C、Nとともに

(三) 同月一〇日○○駅裏、白石市内○○○等において、M。C等とともにそれぞれ前記二の(三)の賍物である塗料を、ビニール袋に入れて吸引した

ものである。

以上の事実は、添付の質問調書によつて明らかであり、前記一の事実は法定遵守事項第一号前段に、同二の事実は法定遵守事項第二号、特別遵守事項第三号に、同三及び四の事実は法定遵守事項第二号に、同五の事実は法定遵守事項第二号、第三号にそれぞれ違反しているものである。

次に、仮退院中の本人の行状についてみると、就職しても持続性、安全性を欠き、家出や不良交遊を繰り返し、放恣な遊興生活に耽ついたものであり、しかも盗んだ塗料を吸引しながら無免許運転をしたり、母に対して自己の要求を貫徹するため自己の衣類に灯油をふりかけ焼燬するなど、その行為はきわめて悪質であつて反社会性が顕著に認められる。また、三月二九日以降家出をしていた本人は、四月三日塗料吸引中のところ○○警察署員の補導を受け帰宅し、同月七日仙台保護観察所において保護観察官○○○○の面接指導を受けたが、その二日後には再び家出し塗料吸引を繰り返しており、これらの行状からは、昭和五四年七月二七日仙台家庭裁判所の決定により少年院に送致された際、裁判官から指摘を受けた少年の問題点たる「感情が不安定で、落ちついた行動をとることができず、一定の規制がないと容易に逸脱し、素行不良者とも安易に交わつてしまう」傾向が未だ改善されていないのみならず、その非行性の進度は一層深まつているものと認められるばかりか、病身の父と感情的言動に終始する母からはその保護能力に期待することができず、しかも他に適当な人的資源も見当らない状況にある。かかる現況においては、保護観察を継続することにより本人の改善更生を図ることは極めて困難であり、社会内処遇から施設内処遇へと処遇の転換を図る必要性が認められる。

よつて、この際少年院に戻して収容し、その矯正教育に委ねることを相当と認めるものである。

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